導入事例

第3回 DXのイロハ(3)身の丈DX実現の心構え

ITコーディネータ・中小企業診断士 長戸 美樹

DXの段階には、レベル0からレベル3まで4段階あります。まずはレベル0から一歩踏み出すための心構えをご一緒に考えましょう。

(1)改めて、DX進展のステップを考える

毎回ご説明している「埼玉県DX推進支援ネットワーク」の、以下の図をご覧ください。

埼玉県DX推進支援ネットワークでは、DXを以下のように定義しています。

※ DX (デジタルトランスフォーメーション)

D(デジタル)でX(変わる)こと。単にデジタル技術を活用することが目的ではなく、デジタル技術を使って「今までにない新たな価値」を生み出したり、ビジネスや組織、働き方など様々なかたちを「変革」することを目指します。

つまり、DXにおいて重要なポイントは「D」ではなく「X」なのです。

DXを英単語で省略せずに書きますと「Digital Transformation」です。「Transformation」を略する際に「X」という文字を使っています。

「Transformation」は、日本語では「変容」「変革」であり、私たちにとってのDXとは「仕事のあり方を大きく変えていくこと」となります。

しかし最初から、最高峰のレベル3を目指す必要は全くありません。「手作業をデジタル化して、データをすぐに再利用できる仕組みを整える」など、まず効果が出やすいところから取り組んでいけばよいのです。最初の成功体験が、次のステップへの原動力となります。

(2)最初の一歩を踏み出した事例紹介(卸売&小売業)

今回、川口商工会議所の会員である店舗併設型の卸売業の会社から、「無料のgmailでなく、独自ドメイン*1のメールアドレスを利用したい」という要望を受けました。「社内で複数の社員がメールを利用する際に、共通のドメインで用意したいから」とのことでした。また、この会社は、現在WEBサイトを保有していますが、外部に運営を委託しており、「①月額の固定費用が高い、②サイト更新が自分自身でできない=更新のスピードが遅い」ことが問題となっていました。

*1 独自ドメイン

インターネット上の自社の固有アドレス。WEB上で一軒家を持つイメージで、ブランディングに有効であり、周囲からの信頼度が高まる。

たとえば川口商工会議所で利用しているメールアドレスは「●●●@kawaguchicci.or.jp」、川口商工会議所のWEBサイトURLは「https://www.kawaguchicci.or.jp/」である。この「kawaguchicci.or.jp」の部分が独自ドメインである。

ですが、自社でサイト構築やメールアドレスを用意した経験がなく、どれくらいの手間や費用が掛かるのかが分かりませんでした。そこで、川口商工会議所の専門家派遣を利用して問題解決を図ることにしました。

その結果、独自ドメインを安価に取得し、新規のメールアドレスを設定し、またそのメールをパソコンだけでなくスマホでも読める設定をしました。これがたった2時間で、オンラインの支援で出来たのです!

そして次回からは、この独自ドメインを利用する自社サイトを構築していきます。これが実現すれば、自社でイベントをやりたい時など、すぐに自社で更新してWEB上に掲載できます。次回以降の支援も楽しみです!独自ドメインでのサイト構築(自社でのタイムリーな管理)によって、この会社の集客力・ブランド力は増し、WEB上での新規顧客開拓につながっていくことでしょう。もちろん、サイト構築の際には、SNSとの連動やSEO対策*2・MEO対策*3等を同時に進めていきます。

*2 SEO対策(Search Engine Optimization):WEB上で検索した際に、自社サイトを上位に表示させ、露出を増やすための方策。

*3 MEO対策(Map Engine Optimization):Googleの地図検索エンジンで、Googleビジネスプロフィール(旧Googleマイビジネス)情報を上位表示するための対策。

結果的に、この会社は、独自ドメインメールアドレスを複数用意して、従業員各自が自分のスマホから送受信できるようにしました。近隣への配達業務が多いため、会社に戻らないとメールが読めないことが業務のロスを生んでいましたが、これから以下のように変わっていきます。

  • 会社に戻らなくても、各自がスマホで即時にメール受発信ができる
  • メール返信が早くなり、お客様とのコミュニケーションがスムーズになる
  • 売り逃し・失注がなくなり、受注も増え、売上があがる

今後は、自社で管理するWEBサイトやSNSの活用とメールコミュニケーションなどの成功体験を活かし、次なる販促策を立てていくことになるでしょう。そうすると、最初に示した図のレベル3「クラウドサービスを最大限活用した販売戦略の展開」も視野に入ってきます。

(3)身の丈DX実現の心構え

ここまでの話を踏まえて、「レベル0から一歩踏み出す時=身の丈に合ったDXに取り組む時」の心構えについてお話します。私が考えるポイントは、以下の通りです。

  • 現状を変えることを恐れない
  • なりたい姿を思い浮かべよう

スタートは、経営者の強い思いです。

今の時代は、現状のままでいること=「後退」「退化」です。同じ仕事を同じやり方でこなすだけでは、少子高齢化社会で人口が減っていく今の我が国では、対象顧客が減少していくだけです。

現社長がこれからもずっと事業を担っていく、次の代に事業を引き継ぎたい・・・そのような会社であれば、会社が存続できるだけの利益を残していかなくてはいけません。その時に、手作業や手間がかかりすぎる業務が足かせになるのはもったいないです。安価かつ手軽に、業務改革につながるDXツールがたくさんあるのですから。

「一歩踏み出そう」という決意を抱いたら、実際に取り組んでみましょう。

  • 現状の業務を洗い出そう
  • ネックとなっている業務を解決できるツールを探してみよう
  • 商工会議所・専門家の力を頼ろう
  • まずは安価に手軽に実施できる策を、ひとつやってみる

この6番まで到達して効果を実感すれば、すでに一歩踏み出せています!自分でヒントを見つけたり、背中を押してくれる人を頼ったりすることで、一歩目を踏み出せるのです!

まずは身の丈にあった取り組みからはじめ、少しずつ自社で出来る領域を広げていきましょう。その際には、社長以外にもDXを牽引できる人材を育成するなど、組織自体も変わっていくこととなります。

身の丈DXへの取り組みが、皆様の会社を明るい方向へ導くための足掛かりとなります。川口商工会議所は、皆様を全力で応援いたします。変革を恐れずに、一緒に前進していきましょう。

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